「風の電話」と魂の存在

長い間、山の中で暮らし人間の言葉を話さない動植物と心の交流をしてきた体験から、亡くなられた方でも「死」というものの捉え方の視点を変えることで、想いを伝え交感・交流することは可能ではないだろうかと考えた。

生き物の生死は一つの線上で繋がっていて、生の延長線上に死があると考えた。亡くなり肉体が消滅したからと言ってその人間が消えていなくなったのではなく、死者として存在していると考えることができる。私たち人間は肉体を持つだけでなく、「感覚、知性、精神」などという意識体を持ち、「心」がそれ等をコントロールしている生命力(エネルギー)であると考える。

そう考えなければ「風の電話」の誕生はあり得なかった。愛する人が亡くなっても「風の電話」で想いを伝えることができる。死者と交感できるということは、生前肉体上の感覚器官を使って「見たり、聞いたり、触ったり」できるという五感の行為ではなく「感じる」という心の対象になり、死後も可能になると考えた。それは言葉で表すことは難しく、祈りとか信仰というものと共通するところがある。

生命力(エネルギー)は生きる力、元気であるのみでなく、心そのものでもある。心にパワーがあって初めて思考力も、生きる力も生まれてくる。しかし、その心は人間の身体のどこにあり、どんな形をしているのでしょうか、誰も分からない。生者にあるのが心で、死者になれば魂なのか?「魂=心」なのか、私にもわからない。誰も分からないからこそ「風の電話」で想いを伝え交感・交流し合うことができるのだろう。

それでは、死者の心「魂」は永遠に存在するのだろうか?私は、亡くなられた方を知る人がいる限りその魂は存在し、知る人がいなくなった時その魂も消滅するのではと考えている。

詳しくは拙著「風の電話と共に」を一読ください。

癒しの底流には祈りがある

今日も台湾から7人、香港から1人が「風の電話」を訪れている。今年に入り欧米や東アジヤの国々の訪問が目立つようである。もっとも、今、世界中に50か所を超す「風の電話」が作られている状況にあり、ロシアのウクライナ侵攻、トルコ、シリアの地震など世の中不穏な現状があり、悲しみを抱える人々が増えている。

それら、人々の悲しみを癒すには人の持つ五感(見る、聞く、触る、味わう、嗅ぐ)に”感じる”という感覚が加わって初めて癒されるという気持ちになる。この何かを感じる感情が大事であり、皆が持っている気持ちの動きであるがそれは、表に出し表現することは難しく、祈りに通じるものがある。

「風の電話」には、「何も聞こえないが相手に伝わっているようだ」「何も見えないが相手を感じる」と、”感じる”ことができるという大きな特徴がある。

「風の電話」を訪れる方は亡くなった大切な方に祈りを捧げることで癒されていると言えると考えている。

東日本大震災から12年

愛する家族を失ったその傷は、12年たった今もありありと存在し、この時期になると疼き悲しみを呼び覚ます。

特に、思い出に触れた時、回復した傷跡に触った時のように神経が傷つき無感覚になっている感じとも違う。むしろ、むき出しになった神経が空気にさらされ、大声で叫びたいような生々しさを伴い湧きおこる。

それは、今いる現実から飛び出したいような、また傷跡を何かに覆われることを待っているような複雑な感覚に囚われているようにも感じられる。

いづれにしても、自分の心を自由にするも、拘束するも自分自身の心の持ち方次第なのだと思う。

 

3冊目の著書「風の電話と共に」出版

7月11日に3冊目の著書となる「風の電話と共に」を出版しました。

東日本大震災から11年が経ちました。昨年で10年、一つの節目を迎えたと思いましたが、被災者は未だ様々な問題を抱えており苦しんでいる方も多いのが現状です。特に、大切な人を失った悲しみは、時間と共に癒えていくというものではなく、個々人の被災状況によってその受け止め方は大きく異なり、 愛する家族を失ったその傷は、いつもありありと存在しています。

「風の電話」を通じての実践活動から「大切な人を失った方々はなぜ自分の殻に閉じこもるのか」「なぜ意識の向け換えが大切なのか」「どうすれば悲しみ苦しみを乗り越えられるのか」等々、感性だけで始めた活動にその後、自分なりの論理性を求めてきました。そしてこれまでの著作や思考を整理し深めることが「風の電話」をより理解してもらうことになるとの考えに至りました。

前著「風の電話 ― 大震災から6年、風の電話を通して見えること ―」「風の電話とグリーフケア」の二冊と多少重なる部分もありますが、これまで様々な場で語り書いてきたものに筆を加え、色々な方との話も引用しました。この本を読んでいただければ、11年にわたる「風の電話」の活動の片鱗がご理解頂けるものと思います。

全国の書店又はAmazonにて発売中です。