晩秋のガーデンの一隅に佇む電話ボックス。ある日、ご年輩の三人連れが風の電話を訪れる。私は気が付かないでいた。妻から誰か来ているよと聞かされ、後で上にあがって来るものと思っていた。
ややしばらくしても誰も来ないので下に下りてみた。しかしそこには誰もいませんでした。おかしいな・・・・と思いながらボックス内のノートを見ると、そこにはひと言
「勝也早く家に帰ろう 父母、祖父母」
とありました。それを目にした瞬間に文字がにじんで見えなくなってしまいました。震災で息子を亡くし、未だ遺体が見つかっていない方だったのでしょう、せめてお地蔵様を渡してやりたかった。このようにひっそり来て、ひっそりと帰っていく方の悲しみは深い。
もう1題は、今日で3回来ました、「やっと電話することができました」とノートに記した方。いつもなら訪れた方を案内しながら話をするのに、その日は別の来訪者もありその方を一人にしていた。
身体の大きな男性で、風の電話ボックスで黒電話をにぎりしめ、あたりはばからぬ大声で話している様子。しばらくそおっとしておいたが、いつまでも電話ボックスから離れないので、そばに行きどうかなされたのですかと尋ねると、男性はポツリと「妻を亡くしました」・・・・。
もし必要なら、お地蔵様プロジェクトよりお預かりしているお地蔵様をお渡ししますがと話すとうなずき、カフェでお茶を飲んで行かれた。ノートには「やっと電話できました、残りの人生はふるさとの再生につとめていきます、その時、胸をはって会いにいきます」と記してありました。
これもまた何度来ても電話をとれない、入る気持ちになれない等など心の復興には個人差が大きく、まだまだ静かに寄り添って「大丈夫だよ」と声をかけてやらねばならない方が大勢いる、常にこころせねばならない。