「風の電話」の公共性

2019年9月、「風の電話」を含む周囲の環境が第4回国際パブリックアート賞を受賞しました。(パブリックアートとは、公共空間の芸術作品のことを言います。世界を7ブロックに分けそれぞれのブロックで受賞作品が決まる。昨年の表賞会場は北京大学でした。)

「風の電話」のあるベルガ―ディア鯨山は、何時でも誰でも利用できますが、公共空間と云いましても駅や空港のような全開訪的な場所とは異なり、ある種の制約が内在するものと考えています。

それは、「風の電話」自体が何らかの喪失感を抱えた方々が対象であり、想いを伝える間もなく会えなくなった人に想いを伝え、心の重荷を軽減し再び生きようと意識の向け換えを望む方々が訪れるところだと思っているからです。そして、その方々が「風の電話」という「場」の力を体験することにより本来持っているご自身の生命力を取り戻し、自分が主体的に行動することを促していく処なのだと考えています。従って、観光客やその他の人たちの利用は、喪失感を抱えた方々への共感や、「生と死」について考えを巡らせる機会にはなったとしても、一般的には”遊び”の要素が強くその場にいて欲しくない存在なのです。

グリーフを抱えた人たちの心情として、自分の悲しむ姿を他人に見られたくない、哀れみを受けたくない、同情されたくないという心理が働きます。それを無視した「何時でも誰でも」であっては本来必要とされる人たちは避けるような傾向になるでしょう。「風の電話」はそうならないように観光情報を制限したり、電話ボックスの場所、配置、環境等々細心の注意を払い運営されています。

「風の電話」の公共性とは、目を閉じ耳を塞ぎ想像力を働かせ、各自が考えて判断していただくことなのだと思います。